忘れないように

単に記憶力が著しく悪いのか、それとも他に何か原因があるかわからないけれど、年々忘れてしまうことが増えています。その時を生きていた俺が死んでいるような、もう二度と手に入らないものがこぼれ落ちていってるような、そんな気がしてもうこれ以上失いたくないので、日々を書き留めたい気持ちがこのブログです。

斜め向かいの芝は青い

 

    4ヶ月を越えた。病院にいる日数がだ。現時点では今年病院で過ごす時間が長いのか、と気付いて少し怖くなった。まだ退院の目処すら経ってない。年越しだけはせめて自宅でさせてくれ。

    4ヶ月なんて大した節目でもないのに、なんとなくこれまでを振り返った。

 

    3月の末に事故に遭ったが、気がつけば4月。しばらく意識なかったらしい。それを聞いても他人事のように、へえ、としか思わなかった。

 

    そして脳内出血して頭がおかしくなった(おじゃる丸とか見て楽しんでたらしい。御歳20です、こんちには。)関係でベッドの上で拘束された4月。

    初めて車椅子に乗った5月。手術だらけの6月7月。 今まで手術すらしたことない人生だったのに、この4ヶ月でした手術の回数は9回。

    厄年でもないのにこれ。厄年の到来が今から不安でしかない。生きてられるかな。そして今に至る。

 

    4ヶ月入院しててわかったんだけど、大体のやつは1ヶ月ちょっとで退院してる。早いやつは1週間もかからず退院してく。

 

    もう一度言う。俺は入院して4ヶ月を越えた。上には上がいるが、4ヶ月も入院していればこの階の中堅クラスにまでなったらしい。BY看護師さん。

    そんなこと言われると、新しい患者に「お、見ない顔だな。新入りか?」とか思うようになった。

 

    そんな折に、こないだ斜め向かいに新入りが来た。かなり若い。

    毎回病院食にはほぼ手をつけず、院内のコンビニで購入したと思われるご飯ばっか食べてて、「わかるぜ、俺も最初は病院食が嫌でいつも残してた」なんて思ったりしてしまう。

 

    病室の区切りなんてのは薄いカーテンで仕切られてるだけで、 斜め向かいのそいつが看護師さんと話す声はもう筒抜け。

    入院は退屈で仕方がない、外に出たい、退院したい、とか聞こえてくる度に、俺もそうだったなぁとノスタルジックな気持ちにさせられてしまう。

 

    中堅クラスの俺としては新入りのその初々しさが可愛い。病室で電話したり、多少うるさいのも先輩としての自覚が心を寛大にする。

 

    「シャワー入りたいです」

 

    このセリフを立て続けに3日は聞いた。

    いくらこのフロアの中堅を担う俺としてもこれには怒りを隠せない。病院では毎日シャワーなんて浴びれない。せいぜい3日に1度くらい。

 

    俺なんて傷の関係もありシャワーは時々入れるくらいで、基本は頭洗ってもらうだけ。

    いや、わかるよ。常人なら毎日お風呂には入りたいよな。たださ、看護師さんのメインの仕事は「看護」なんだよ。

 

    お前が毎日シャワー浴びてたら、「あいつが毎日なら俺も」なんて具合に毎日入りたがるやつが続出して、看護師さんが激務の毎日になるだろうし、そういう想像力を働かせられない無神経さに俺は憤慨している。

 

    俺だって出来れば毎日シャワー浴びたい。毎日リハビリで汗を流してるんだし尚更。

    でも俺はただでさえ忙しそうな看護師さんを見てると、毎日シャワーに入れてくれなんてワガママはとても言えない。洗髪お願いするときも「もし余裕があればでいいので…」なんて前置きからお願いするくらい低姿勢になってしまう。

    小さい頃、両親は不仲で喧嘩が絶えなかったので子供ながらに空気を読んで生活していたこともあり、とても消極的に育ってしまった。

 

    毎日シャワーに入りたいと言う彼を無神経なやつだと決めつけてはいたが、彼だって大人だし、なんなら俺なんかより歳上だ。

    きっと自分が毎日シャワーに入ると、じゃあ俺も入りたいっていうやつが出てくるだろうし、そうなったら看護師さんが忙しくなるのはわかってるんじゃないだろうか。

    ただそれでもシャワーに入りたいことを通す気持ちの強さ。

 

    俺は怒っているんじゃないんだ。きっと彼に嫉妬している。自分にないものを持つ彼が羨ましい。

 

    ここまで書いている内に、彼は退院していなくなりました。

    本当なら明日退院って言われてたのに無理を言って今日にしてもらってた。