Each end point
目が覚めると、そこは電車の中だった。
窓から射し込んだ光で、車内は黄色くて、暖かかった。周りにはちらほらと人が乗っている。
そういえば、僕はいつから電車に乗ってたんだっけな。それに、これは何処へ向かってるんだろう。
まあでも、どこか適当なところで降りればいいか。
僕は窓の外に目をやり、流れる景色を見ていることにした。
なんだか、懐かしいな。
子供の頃はよくこうして、いつも窓の外を見ていた。まだ小さかったから、座席に靴のまま登ろうとしてよく父さんに怒られたな。
思えば、いつから窓の外を見なくなったんだろう。
最近までそうしていたような気もするし、随分前にしなくなったような気もする。
そんなことを考えていると、電車はトンネルに入ったので、僕は少し横に向けていた体を正面へと向き直す。
すると、前に座る男と目が合った。
男はニッコリと笑って会釈してきたので、僕もとりあえず少し笑って会釈した。そして聞いてみた。
「あの、これ、どこに向かってるんでしょうか。」
「さあねえ、それは私にもわからないけど、きっといいところだよ。」
「そうですか…」
男もわからないと言うので、僕もそれ以上は聞かなかった。
そのまま少し沈黙が続いて、なんだか気まずくなってきた時、トンネルを抜けた。
僕は先程よりも体を横に向け、再び窓の外を見た。
そこには長閑な田園風景が広がっていて、その中を小さな子たちが駆け回っている。
自分の実家も丁度こんな風な田舎で、見てると自分の少年時代を思い出して、微笑ましい。
しばらく眺めていると、今度は制服に身を包んだ学生たちがちらほら見えてきた。
まるでこの電車は時間という線路を進んでるみたいだ。電車が進むにつれ、窓の外の人々が子供から大人になっていく。
来た方へ目をやると、まだ遠くに小さな子たちが見えるし、進行方向を見ると遠くにスーツや振袖を着た集団が見える。
あれは成人式かな。
あの人、少し僕に似てるな。どことなく面影があるというか。でも、僕ってあんなに若かったかな。いや、あんなに大人だったかな。
そんなことを考えていると、緩やかに電車が停車した。
ドアが開くと、先程の前の男が立ち上がった。
「ほうら、やっぱりいいところだったよ。」
「と言うと、何がです?」
「ここが終点だから。」
それを聞いて、慌てて立ち上がって降りようとした僕に、男はこう続ける。
「あ、いや。君はまだまだ先があるよ。でも、私にはここが終点だから。それでは、さようなら。」
そう言って、男は降りていった。
男が言っていることがよくわからず、僕はぽかんとしていると、ドアが締まり、電車はまたゆっくり進み始めた。
とにかく、電車が進みだしたことから、どうやらさっきのところが終点じゃないようなので、僕は再び窓の外を眺めながら、電車に揺られていた。
長い間、窓から流れる景色をを見ていると、だんだんさっきの男が言っていたことがわかってきた。
なんだ、そういうことだったのか。
その後、僕は降りていく乗客に深く会釈して見送っていると、いつからか斜め向かいに座っていた男が聞いてきた。
「これ、どこに向かってるか知ってます?」
僕は答えた。
「さあ、僕にもさっぱり。でもきっといいところに着くよ。」
そう言ってすぐ、電車がゆっくりと止まった。
「ほら、やっぱりいいところだった。」
そう言って、僕は電車を降りた。