知人友人間でまで何かを勧めたりするの、やめません？

    今でこそ、このブログは俺が取り留めもない話や考えをダラダラと書き綴るものと化したが、本当はそんなことを書くために開設したブログではない。

    俺が好きな物を同じように好きと思う人は周囲にあまりおらず、つまり俺はマイノリティの人間だった。友人達が音楽の話で盛り上がってるのをいつも外から見てた俺は、同じように好きな音楽や漫画の話をしたかった。Twitterで同じ趣味を持つ人間を見つけて交流をとったりもしたが、それは空虚で求めていたものとはなにか違った。じゃあみんなに好きになってもらえればいいと考えた俺は、自分の好きな物を紹介して勧めるためにブログを開設して、記事のURLを知人友人にシェアしまくった。みんなはきっと知らないだけで知れば絶対好きになるに決まってると俺は自分のセンスを信じて疑わなかった。

    しかし思った以上にうまくはいかなかった。なんでなんだろう。俺のセンスは絶対に悪くないはずなのに。こういう時は自分が逆の立場になって考えるのが手っ取り早い。もし俺が誰かに何かを勧められたら…

    あ、めちゃくちゃ嫌だわ。

    そもそもこの時代、街を歩けば広告に囲まれる。ようやく家に帰って落ち着いても、ネットを覗けばそこにも広告。広告だらけの世界に辟易としてきて、そんな折に知人友人と飯食ってる時にいきなり、

    「ねえ、このインディーズのバンド知ってる？これが超良くてさ、何がいいってポップで明るいメロディーなのに歌詞が嘘みたいに病んでて暗くてさ！そのミスマッチが魅力というか…もちろん演奏もめっちゃうまいよ！！」

    とか言われても、ねえ？俺はてっきり昔話で盛り上がったり、近況報告でもするもんだとばっかり思ってたのに。ここでも広告。もう逃げ場がねえよ。行くとこ行くとこに広告がついてまわる。一体いつ終わるんだこの「逃走中」。制限時間は？リタイアする電話ボックスは？クリアしたら、賞金で広告のない世界作ってやるからな。

    大体、そんな勧められなくてもバンド名だけ教えてくれたら、帰ってからYouTubeで検索して聴くから。いや、いいって。今感想聞きたい、じゃないよ。俺は近況報告でもしようと思ってたのに。仕事の話とかさ。ほら、俺ら今年就職したばっかりで何かと愚痴とかこぼしたいじゃん？いや、イヤホン渡してこないでよ。すごいね、こんなグイグイくるタイプだったっけ？もしかして仕事、営業か訪問販売？…わかったよ、今聴くよ…。

    やばい、全然好きじゃないこのバンド。悪くはないけど、そんなに言うほど良くない。つーかお前と俺で好み全然違うから多分合わないだろうなって思ってたよ。知ってた？俺とお前、好み合わないんだよ。昔から俺によく何かを勧めてきては、「ね、良くない？」とでも言わんばかりの顔で俺の感想を待つお前に、俺は本当のこと言えずに嘘ついてきたから、お前は好みが合ってると思ってるかもしれないけどさ。確かにハッキリ言えない俺も悪いけどさ、そんな期待した顔で見るお前も同じくらい悪いからな？

    「お前」は俺の知人友人の特定の誰かでもなくて、みんなのことだよこれは。「お前」はお前。そんなお前に一つだけ知っといてほしいことがあるんだ。

    俺みたいに人の好きなものを嫌いとか良くないって正面から否定出来ない、弱い人間もいるんだ。人の好きなものを否定すると傷つける気がして、例え嘘でも同調するし、それは優しい嘘だと思ってるんだ。その時、俺は顔には出てないけどめちゃくちゃ疲れてる。良いと思わないものを如何にも良いって思ってる風に振る舞うのはしんどい。みんなも気遣ってるときってしんどいじゃん？みんなは仕事とか、先輩といるときに気を遣うかもしれないけど、世の中には仲良い友達でさえ時として気を遣う人間もいるんだ。

    だから、知人友人にまで何かを勧めるのはもうやめにしよう。俺も、ブログではするかもしれないけど、誰かといるときにまで何かを勧めたりすることはしないからさ。