忘れないように

単に記憶力が著しく悪いのか、それとも他に何か原因があるかわからないけれど、年々忘れてしまうことが増えています。その時を生きていた俺が死んでいるような、もう二度と手に入らないものがこぼれ落ちていってるような、そんな気がしてもうこれ以上失いたくないので、日々を書き留めたい気持ちがこのブログです。

人生なんて一発ギャグ

 

    子供の頃なんて、きっと誰でもイタズラしてしまうもので、俺も例に漏れずにイタズラしてはよく怒られて泣いていた。自分が怒らせるようなことをしているだけなのに、勝手に拗ねて親と距離をとりテレビの前に一人座っていた。

   でも子供なんて単純で、次第に興味はテレビへと移り、泣きながらも目はテレビへと向いていて。それで、少しでもおもしろいことがあると、涙は止まり、自然に笑みが零れる。

 

    それから少し年月は経って、中学生になった。中学生と言えば、気遣いとか遠慮が少しくらいはできて、少なくとも泣くほど悲しいときにテレビを見て面白かったら涙が止まって笑えるほど子供ではない。

    そんな中学生の頃に、当時付き合っていた彼女とやむを得ない事情で別れることになった。俺は泣きながら電話の向こうでごめんって言う彼女に、少しでも自分を責めて欲しくないから明るいトーンで仕方ないよなんて言って笑って電話を切って、そしてめちゃくちゃ泣いた。

    思春期だったから恋愛の話も家族としたくなかったし、自分の部屋に閉じこもってずっと落ち込んでた。切り替えねばと思って、テレビをつけてたけど涙は止まらなかった。でも、しばらく無心で見ていると、お笑い芸人が一発ギャグかなんかしたのが、それがあまりにもくだらなくて、気がつけば少し笑ってしまった。その時、お笑いってすげぇ、そう思った。

 

    そういうことがあって、それ以来お笑いが好きになった。本当ならこういう過去があると人はお笑い芸人になりたいとか思ったりするんだろうけど、別にそんなことはなくてただお笑いが好きになっただけ。でもお笑いが好きになったのは事実で、テレビでお笑いの番組とか賞レースは結構欠かさずに見ていた。

    すると今度はお笑い芸人になりたいとまでは思わなくても、なにかおもしろいことをしたい人を楽しませたいと思うようになってきて、気付けば俺はいつも冗談ばかり口走っていた。ただ俺が笑ってもらおうと思って言うことの大体はつまらないし、周囲の人はめんどくさかっただろう。そして、俺はそれに気付けないでいたし、なんなら自分の笑いのセンスは良いと勘違いしていた。それが一番笑えるな。

 

    俺が好む「笑い」というものは、なにかマイナスな或いは負の感情めいたものを陽気で明るいものに変えれる物だった。例えば、ブサイクをウリにして笑いを誘う芸人。ブサイクは美醜の醜にあたる。美醜という字は、反対の意味を持つ漢字の組み合わせで形成されるタイプの熟語で、美が良いものとするならば醜は悪いもの。しかしそれをあえて笑いに変える。所謂自虐ネタって言うやつだ。

    自分では好きになれない、もしくは世間一般的にコンプレックスだとされるものであえて笑いをとるということは、そこに人を楽しませるものという意味が追随されるということ。それってまさしく俺が好む笑いだ。そういうわけで俺はよく、DVを受けた過去とか、わりとめちゃくちゃな家庭環境(世間的にはってだけで俺にとっては普通なのだが)とかを自虐気味に語ることで人に笑ってもらおうとした。笑ってもらうことで、それを辛い過去ということにせずいっそ愉快な物にしてやろうと思っていた。

     俺が辛そうなとき、不幸の中にいるときにそれを笑えって言うのはそういうことなんです。

 

    そうそう、何度か事故にあった話を他の記事でもしましたね。去年の春に死にかけて、それから一年入院して。泣きながら飯を食って、痛い思いも何度もして。ずっとベッドの上で動くことも出来ずに天井を見ながら過ごす病院の個室は広すぎて、流れる時間も遅くて。右の人差し指は曲がったまま固まってしまって。元から下手だった字が、さらに下手になって。麻酔から目を覚ますと、ふくらはぎの当たりがぽっかりなくって。アキレス腱を摘出したんだって。それによってもう走ったりすることは一生出来ないらしく。でもそれ以来よくスポーツしてる夢を見るんだ。あんなにスポーツ嫌いだったのに。夢の中で走ってたらそのまま目が覚めて、その感覚がリアルに体に残ってるから汗をかいていて。シャワーを浴びようと起こした俺の体は、残っている夢の中で動き回ってた体の感覚とは全然違くて。ちょっとした段差を恐る恐る降りなきゃならないくらいで。そういえば今度、身体障害の適性試験を受けることになった。偏見とか持ってるわけじゃないけど、健常者として生きてきた俺には、その試験を受けることで訪れる大きな変化が少し怖い。とかなんとか言ってるけど、悪いのは全部俺なんだ。そもそも生きてるのが奇跡ってくらいの傷を負って、診断書もらったら症状が5回も改行されてやんの。なのに今生きてて普通に麻雀とか打ってんの。曲がった指で。ウケる。

 

    笑え。笑ってくれ。

 

    もちろん良いことも幸せなこともたくさんある俺の人生だけど、今のところもう1つの方との対比はまだまだ負けていて。これからどんどん変わってくだろうけど、今までがこれじゃこれから良いこと幸せなことがどんどん訪れて対比が覆る!なんてことは少し想像しにくい。となると、俺の人生は二つに一つで言えば不幸なものなのかもしれない。

 

    俺が死んだときはみんなたくさん笑ってくれ。俺の人生という、この自虐気味の一発ギャグを。どうか笑ってくれ。