好きの気持ちに度合いとかねえから!
誰かの紹介で新しく人と知り合うことになるときあるじゃんか。友人の友人とか。そういうとき、大体簡単な自己紹介から始めて次に趣味の話をする。共通の話題があればそれをきっかけに話せるから。
それで共通の趣味があったとき、話題のテーマにもできるし、単純に自分と同じ趣味の知り合いが増えるって喜ばしいことなんだけど、同時に少し警戒心も強まるのは俺だけだろうか。
俺の趣味と言えば、漫画とか音楽とかで、それも大体サブカルと呼ばれるものだから、そういう話をできる知り合いが、それもネットじゃなくてリアルで増えるかもしれないというのは願ってもないことなんだけど。
お互いの趣味について話してるとき、相手が言う「あの曲いいよね」みたいなのに、「その曲聴いたことないんだよね」なんて返すと、露骨に
「え、好きなんじゃないの?」
みたいな顔するじゃんか。は?なんだよ?その、好きなら知ってて当然の曲でしょ、みたいな顔。好きの度合いは知識量に出ると思ってる口の人?うーわ、寒っ!マジ寒いよ、お前。
好きならいろいろ知識がついてくるから、好きの度合いを知識量で測ろうとする考えた方もわからなくはない。ないけど、好きの度合い測る必要なくないか?度合いを測るだけならいいけど、でもそれだけで済まないだろ?その測った度合いをマウントとるために使うじゃんか。
「(え、サブカル好きなのに)泉まくら聴かないんだ」「MICOちゃんはSHE IS SUMMERのボーカルだよ(笑)ちなみに前任のバンドはふぇのたすね(笑)」「漫画好きなのに作者の名前も覚えてないの?」「おやすみプンプン読んだだけで浅野いにおが好きとか言うのはまだ早い。」「現場来ないのはドルヲタとは言えない、よって在宅ヲタという言葉は不適切」「コールもMIXも打てないとかお前それでドルヲタのつもり?」
あーもう!うるせえうるせえうるせえ! こういう好きの度合いでマウントを取り合うレスリングが始まりかねないので、俺は共通の趣味を持った人と知り合うとき、嬉しい反面、警戒してしまう。臨戦態勢に入ってしまう。
「俺は漫画とか音楽が好きかな、それもサブカルよりの。」
『え!私もサブカル超好きだよ!』
試合開始のゴングだ。
『どんなアーティスト聴く?』
「んー、いろいろ聴くよ。」
『じゃあさ…』
話途中で彼女は一つ間を置いて、
『吉澤嘉代子とか聴くっ!?』
そう言いながらタックルを仕掛けてくる!
「好きだよっっっ!ライブもっっっ!1回行ったっっっ!」
そう返して俺はタックルを躱す。が、しかし、
『私はもう10回以上行ってるっっっ!!!』
と、しっかりと方向転換を決めて今度はしっかりとタックルされる。
そして俺の上に馬乗りになる彼女。
『いつから好きなのっっっ???』
「3年前くらいっっっ!!」
『それなのに1回しかライブ行ってないのっっっ???ちなみに私は5年前から好きだよっっっ!!!CD持ってるっっっ???』
「タワレコインストアライブで買った1枚だけならっっっっ!!!」
『私は全部持ってる!!!!!』
「じゃ、じゃあ、全部歌詞覚えてるっっ??」
『もちろんっっっ!!!ファンなら当然でしょっっっ!!!』
「ぐっ…っ!」
『えっっっ!?まさか覚えてないのっっっ???』
『それだと聴いても曲名わからないとかもありそうだねっっっっ!!!(笑)』
「ぐうっっっっ!!!」
防戦一方の俺。そんな俺を彼女は弄ぶようにジワジワと攻めてくる。しかし、それもそろそろ飽きてきたのか、彼女は子供が興味をなくしたおもちゃを見るような目で俺を見下し留めの一撃に入る。
『昔からイベントずっと行ってるから本人から認知されたんだ!!!!!』
試合終了。なんだよ、これ。仕掛けた方が圧倒的有利じゃねーか。今度は俺から仕掛けていい??お前がちょっと知ってるくらいのアーティストの話してやるから。
いや、違う。俺までレスリングに勝とうとしてどうする。そもそもこういうレスリングをやめようぜって話だよ。
こんな風に、好きの度合いでマウント取り合うから、下手に好きって言えない世の中になったし、そのせいでこれから好きになろうとしてる人を潰してることにいい加減気付けよな。好きなものにプラスに働くような存在であれよ。
いいか、好きの気持ちに優劣なんてないし、仮にあったとして、それで勝って一体何になるんだ?それで自尊心が満たされるか?それで満たされる自尊心なら、そこまでお前を追いつめた社会が悪いし、俺も社会に生きる1人の人間として謝るよ、ごめんな。でも、それで他人を追い詰めるのは違うだろ。お前がされてきた嫌なこと、お前がしてどうすんだよ。
「好き」なら「好き」でいいじゃんか。「アリガトウ」しか言えないのに日本語話せるって自信満々に言う外国人を見習おうぜ。あんまり知らないけど好きだよ、とか言っていこう。それくらいふてぶてしく生きよう。俺たちで、簡単に好きって言える世の中にしていこうぜ。